令和5年度 環境教育研修会(こどもと暮らし研修会)

子どもと暮らし研修会① 令和5年6月2日

竹島水族館館長 小林龍二氏

小さい水族館ならでは「水族館」

今回は竹島水族館の小林龍二館長のお話をお伺いしました。過去には経営難で廃館も噂された竹島水族館ですが、館長は「今のスタッフ」と「この水族館」だからこそできる水族館を作っていこうと発想を変え、入場者数を増やすことができたといいます。

また生き物を扱う水族館ならではのお話は保育に重なるお話も多く、とても充実した研修となりました。

目線を変える

毎年、自館の入館者数は22万人がノルマなのですが、誰かが館内で寝そべっても問題ないくらいお客さんが来ませんでした。観賞用の小魚が5匹しか買えないなんてこともありました。

ここにはシャチもイルカといった目玉となる生き物もいなければ、施設を広くしたいと思ってもそんなお金は当然ありません。スタッフのモチベーションが上がるわけがなく、地元でも「もうすぐ潰れる」なんて噂も飛び交う始末でした。

何が悪いのか徹底的にリストアップしてみようとスタッフで話し合うことにしました。その中での大きな発見は、自分たちが「施設や魚などが十分整った良い水族館」の目線で考えていたということです。

「ない物はない」「できないものはできない」中で、どうしたらお客さんに喜んでもらえるのか考えて試行錯誤しました。するとスタッフから自館ならではの「オリジナルアイデア」がたくさん出てきました。

魚を説明するポップは、魚目線のグチやぼやきも書いてある楽しい物にしたり、どうせ成功しないカピバラショーを「できるといいなショー」というレベルに設定してお客さんに楽しんでもらったり、スタッフ自身が「キャラクター」としてお客さんが様々な活動をしてもらったりしました。

またアシカショーを見ている間に水槽の魚を入れ替えて、ショーの後には新しい魚を楽しんでもらうなんてことも試しました。小さい水族館だからこそできることを取り入れることで徐々にお客さんも増えてきました。

ダメって何だろう?

こうして入館数を増やすことができましたが、私たちが「ダメだ」と思っている視点は無意識のうちに「勝ち組」の目線で見ていることに気が付いたことが一番の成果だと思いました。

環境の良い水族館と同じ目線でいれば羨ましくもなりますし、無い物ねだりしていればストレスになるだけですね。わざわざ同じ土俵に立つ必要はないと気が付きました。

自然界でよくある話に倣えてお話しします。アシカという生き物は1匹のオスが群れの全てのメスを獲得できます。いわゆるハーレムという環境です。

ではここにオスの「気の荒いアシカ」「性格が中間のアシカ」「逃げ腰アシカ」がいるとします。さあ誰がハーレムになれるでしょう?

気の荒いアシカが有力だと思いますが、意外と逃げ腰アシカがハーレムになれる場合もあるのです。

気の荒いアシカは性格が仇となって、一番先に海に入ることで外敵の餌食になることも多いです。次のアシカもまた同じように捕食された場合、残された逃げ腰アシカがハーレムになれるということは特に珍しいことではありません。

そもそも自然界は平等ではありません。しかし「自分にある物」で生き延びなくてはいけません。不平等が当たり前だという視点で

また皆さんもイワシの群れを大型生物が捕食する場面を見たことがあると思います。何となく同調して泳いでいたイワシより、同調しなかったイワシの方が食べられずに済むことも珍しいことではありません。

その中で一番大変だったのは、スタッフそれぞれから良い意見を聞くことでした。人間は話すときの環境や立場で言いたいこともなかなか言えないものですよね。ですから個々にアイデアを聞いたりしつつ整合性を取ったりするのが一番大変でした。また皆が同じベクトルで目標に向かうことは難しいですよね。

魚だと「強い魚を他の水槽に逃がす」「より強い魚を入れて環境を変える」なんてことができますが、人間はそう簡単ではないですね。私からすれば一番飼育が難しい生き物かもしれません(笑)

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                     

アシカショー

私がまだ現場にいたころ、アシカの調教を引き受けてみましたが当然何もかも分かりません。色々と学んで実践しようとしても、アシカのアイちゃんもやる気なし。仮病を使うし、部屋から出てこないし、当然ショーなんてものがまともに行えないので私はお客さんに頭を下げる日々でした。どうすればいいか考え抜いた末に「アシカショー」を中止しました。

アイちゃんには代わりに館内を散歩してお客さんに楽しんでもらおうということになったのですが、これが良かったと思います。アイちゃんはお客さんと触れ合ったり写真を撮ってもらったりするのが大好きな性格だったのです。練習は嫌いだけど散歩は大好きで、しばらくすると散歩に行くために柵の前で待っている様子も見られるようになりました。適性を知り、受け入れたことでいい結果となった事案でした。

入館者数も47万人まで増やすことで成功した竹島水族館ですが、館長には悩みがあるそうです。それは経営がうまくいっていることでスタッフたちから新しい意見があまり出てこなくなったこと、また昔のようにじっくりと魚を見てもらえる水族館ではなくなってきていること…。足りたらなくなる物を埋めながら、これからも竹島水族館らしい楽しい水族館であり続けてくれると思います。